Chez Marie

クロねこのリボン

ある雪の降る夜でした。私は暖かい暖炉の前で、うとうとしながらそのまま寝てしまいました。

コンコン、とドアがなる。
そこには、赤い傘を持った、クロねこが立っていました。

「道に迷ってしまったんだ。星の降る海は、ここから近い?」

クロねこはそう言いました。

「星の降る海?」

私はずっとここに住んでいるけれど、そんな名前のところは聞いた事がありません。

「聞いた事ないところだよ?ここからだいぶ遠いんじゃないかな…?」

するとクロねこはこう言いました。

「この街のすぐ近くにあるって聞いてるよ?」

クロねこは、ここの街のすぐ近くに岬があり、そこから星の降る海が見渡せると言うのでした。

「僕はここから遠く離れた街からやってきたんだけど、なんでも願い事が叶う、星の降る海があるって聞いて、この街にやってきたんだ。」

「そうなんだ?でも、私はそんな海が近くにあるなんて、初めて聞いたよ?」

その時、ハッと目が覚めてしまいました。

「なんだ、夢だったのね。願いが叶う、星の降る海…そんなところがあったら、行ってみたいな。なんだか、ワクワクする夢だったな。」

それから何日か経った、また雪の降る夜でした。
私はまたしても暖炉の前で眠ってしまいました。

「…ところでお嬢さん、ボク、これから星の降る海へ行こうと思っているんだけど、そんなに気になっているなら一緒に見に行ってみるかい?」

この間見た、夢の途中からでした。

星の降る海。

そこはこの街を少し出て、すぐ近くにありました。

「驚いた。こんなところが近くにあったなんて。私の街の人たちは、みんな知らないんじゃないかな?」

キラキラと輝く星が海に鏡のように映り込み、まるで宇宙の中にいるような、とても綺麗な海でした。

クロねこは、海を見ながらこう言いました。

「ここの海はね、現実の世界と夢の世界を繋ぐ入り口なんだ。もし何かに迷った時には、ここへおいで。きっと、君たちの道しるべになる。それと…」

クロねこが私の腕に、リボンを付けてこう言いました。

「これは僕からのプレゼントだよ!」

その時に、私はハッと目が覚めてしまいました。

ふと気づくと、私の腕にはリボンが結ばれていました。それは不思議なことに、夢の中でクロねこが付けてくれたもののようでした。

「これは夢…?」

夢が現実か気になった私は、夢の中でクロねこが言っていた、星の降る海へ向かってみることにしました。

同じ岬へ来てはみたものの、そこはいつもの岬でした。
夢で見た時のように、海に星は映り込んでいなかったのです。

「私ったら、夢なんか信じちゃって…」

と、振り返って帰ろうとした、その時でした。

「信じてここまで来てくれたんだね?」

声のする方を見ると、そこには1人の少年が立っていました。

「そのリボン。さてはクロねこに会ったんだね。」

「あなたは誰?クロねこを知っているの?」

「僕は星の魔法使いさ。君は星の降る海を探しにきたんだろう?昔はここは本当に星の降る海だったんだ。」

少年は少し悲しい目をしていました。

「今はもう、願いを叶えにくる人が居なくなっちゃったからね。信じる人がみんな居なくなっちゃったら、僕も魔法も、消えて無くなってしまうんだ。だからクロねこにお願いしたんだよ。信じてくれる人を連れてきてって。」

星の魔法使いはそう言いました。

「その証拠に、君の願いを叶えてあげるよ。」

「私の願い…?」

そういえば、私の願い事って何だろう?
色々考えてはみるものの、すぐに思いつく事ができませんでした。

「星の魔法使いさん、私、何をお願いすればいいか、わからないの。だから、本当に叶えたい事がわかったら、またここへ来ても良いかな?」

私は星の魔法使いにそう言いました。

すると星の魔法使いは、こう言いました。

「あぁ、もう君には魔法をかけておいたよ。君はまだ気づいていないかもしれないけど。君が心から“嬉しい”と思う事が何なのか、よーく考えてごらん。」

「嬉しいことはいつも沢山あるけれど、どんな魔法をかけたの?」

「見つけようとすれば、必ずすぐに見つかる。君が見つけやすいように魔法をかけておいたんだ。僕に出来ることはここまでだけど、君が僕を信じてくれるなら、きっとこれからは“嬉しい”事が沢山訪れる。」

そう言って、星の魔法使いは消えてしまいました。

私が思う“嬉しい”と思うこととは何だろう?

ちょっと不思議な出来事だったけれど、私は信じて、自分の本当の願い事を探してみることにしました。

その日から、私の見る夢の中にクロねこが出てくるようになったのです。

「見つけようとすれば、必ず見つかる。星の魔法使いはそう言っていたけど…」

ある日、私は夢に出てくるクロねこに訪ねてみることにしました。

「クロねこさん、私の本当の願い事を探したいの。」

すると、クロねこはこう言いました。

「そういうと思ってたよ!さぁ、これから僕と一緒に探しに行こう!」

こうして、私の夢と現実を繋ぐ、不思議な物語が始まったのでした。